一押し時計を紹介するウォッチコラム
ハンダウォッチワールドと言えば、自他ともに認める謎の多い時計店である。
しかし、その店舗コンセプトの奇抜さや、ド派手な宝飾展示販売会に比して、取り扱っているブランド群は、案外オーセンティックなブランドも多い印象を受けられるかもしれない。もちろん、HYTやドゥべトゥーンといった、良い意味での変態時計と言われる変化球ブランドの取り扱いも多いのだが、巷で流通するブランドに、”どこにも無い”を追求する事は難しい。
ところが、実はあるのだ―。ハンダウォッチワールドが総力を挙げて監修し、捻りに捻りぬいた”どこにも無い”時計たちが。しかし、悲しいかな、これらのアイテムは、そのエッジの効いたコンセプトが一部の人にハマりすぎる故に、発売が噂されると共に、長蛇のウェイティングリストが出来、すぐに完売する事がほとんどなのである。そのため、圧倒的な存在感というポテンシャルを発揮する事なく、世にお披露目される間もないままにひっそりとツウのコレクターの腕元に収まっているという実情があるのだ。
ちなみに、こうした腕時計のデザイン監修を行っているのはほとんどが当社代表だ。自身も日本随一の時計コレクターとして、雲上ブランド、コンプリケーションから、はたまたトイウォッチ迄、あらゆる時計を身に着け、画家としてニューヨークで個展を開催し、デザイナーとして中国でファッションショーを開催しながら磨いた審美眼で、監修を行っている。
本コラムでは、こうしたタイムピースに日の目を当てて、紹介していきたい。そして、興味が湧いたら是非店舗や展示会にお越しいただき、当社自信の腕時計ラインアップをご覧いただれば幸甚である。
眠りから覚めた遮光器土偶
縄文時代の人々が、土偶に込めた「生命の祈り」をテーマとした本作品。最も有名な土偶の「遮光器土偶」をベースに、エネルギーの源の躍動感あふれるトゥールビヨンを配しています。円盤状の文字盤は、縄文時代の貝塚の集積をイメージしています。ベゼル部分、土色のベルトに型押しされた縄目文様は、他の古代文明には見られない独自性が見られます。
本作品の最大の意匠は、一定時刻になると土偶の目が開く事です。時針と分針が正中線を示す時刻付近、すなわち0時、6時、12時、18時になると、土偶に命が吹き込まれたかのように、目を開けます。太古の昔、人々が祈りを込めた生命への祈り、そして、彼らが愛した芸術性と文明性が込められた、珠玉の作品であると言えます。
開発の背景について
約1万年に渡って続いた縄文時代―。金属加工技術が伝わる前の、縄目文様の土器を特徴とすることから縄文時代と名付けられているものの、その実態は謎に包まれており、僅かに出土する考古資料を元に、当時の様子を推測する試みが続いています。
縄文土器には、機能性を妨げるような装飾が設けられていることから、自然に対する畏怖などを対象とした祭祀用に用いられていた説が有力視されています。また、同時代に出土する土偶には、妊娠した女性の特徴を持つ物が多く、生命の繁栄への祈りが込められていたのではないだろうか、という説もあります。
1877年にエドワード・S・モース博士が、大森貝塚から発掘した土器に縄文と名付けてからも、長らくこの時代にスポットライトが当たることはありませんでした。1970年代以降、ニュータウン開発ラッシュによる地層の切削や、地質解析技術の向上により、改めて縄文時代に注目が集まることとなりました。大阪万博の太陽の塔を手掛けたことでも有名な故・岡本太郎氏が、縄文土器の芸術性に衝撃を受け、自身の製作にもそのエッセンスを多いに取り入れていたことでも知られています。
高度経済成長期が終焉してから久しく、成熟型社会に入りつつある現代日本においては、
生命への包容性を持つ母系社会を基軸とし、1万年にも渡って平和な時代が続いたであろう縄文時代に対し、再評価の機運が高まっています。
こうした時代の転換期にあたり、我々も日本人として、祖先の英霊に感謝を捧げると共に、ここに新たな芸術表現を提示したいと考え、ここに「縄文 トゥールビヨン・ウォッチ」を企画いたしました。
「縄文文化」に想いを馳せるコンセプト
本企画にあたっては、縄文時代の人々が、土偶に込めたであろう「生命の祈り」を基本テーマにしました。全体的には、最もアイコニックな土偶である「遮光器土偶」をベースとしたうえで、①にエネルギーの源となる躍動感あふれるトゥールビヨンを配すことで、あたかも土偶が命を与えられて動き出すかのような意匠となっています。
②の部分は、時計の文字盤にあたり、ポインターが時針と分針に相当します。円盤状のディスクは、縄文時代を象徴する貝塚の集積をイメージしており、ポインターの朱色は、実は弁柄色という、縄文時代に重用された赤色顔料の色彩となります。弁柄色は、血の色や太陽の色に近く、生命の象徴として祭祀などに用いられてきたと見られてます。出土した頭蓋骨が、弁柄色に染色されているケースもあり、新生児死亡率が半分であったとされる縄文時代において、生命の再生を願ったものと考えられます。
③のベゼル部分、そして土色のベルトに型押しされた縄目の文様は、故・岡本太郎氏も着目した縄文芸術の象徴であり、規則的に細部に渡って変化を付けた文様は、他の古代文明には見られない独自性を持ちます。
そして、本製品の最大の意匠として、一定時刻になると開く土偶の目(図④)があります。⑤のように、時針と分針が正中線を示す時刻(0時、6時、12時、18時)になると、土偶に命が吹き込まれたかのように目を開けるのです。太古の昔、人々が祈りを込めたであろう生命への祈り、そして彼らが愛した芸術と文明が込められた作品です。
また、付属品にも工夫を凝らしました。縄文の地層をイメージさせる化粧箱を開けると、遮光器土偶を模したBOXが現れ、その中に時計本体が収められています。まるで、考古学者として発掘調査を行うような興奮が味わえます。
製品仕様
40時間パワーリザーブ
土偶の目覚め(0時、6時、12時、18時付近に開眼)
ケース:ステンレススチール(IPめっき)
ストラップ:カーフ(縄目文様を型押し)
風防:サファイアクリスタル
付属品:遮光器土偶型パッケージ